秋月電子 トライアック調光器(スピードコントローラー)の作成・考察とケース加工
秋月電子の店頭で売られていた「トライアック万能調光器キット」を作成してみました。基板にはんだ付けするだけでなく、基板に新たな穴を開けたり、タカチの金属ケースを加工したりと、ド素人なので大変苦労しました。
私は家のコンセントを使いこなしたいと思いました。私たちの生活はガス、水道、電気から成り立っています。これらの中で、ガスの用途は燃やすだけなので限られてますが、水道から出る水は飲料、料理、風呂など、様々な用途に使うことができます。電気はどうでしょうか。電化製品をコンセントに差せば使う事はできますが、水道のように自分でコントロールしている感覚はまったくありません。もし電気を水道のように使う事ができれば、なんだか便利そうではありませんか?
秋葉原のお店では様々なキットが売られていますが、ほとんどは乾電池で動作します。私はコンセントを使って動作させるキットを探しました。そして見つけたのが、この「トライアック万能調光器キット」です。これは家のコンセントの出力を減らす事ができる装置です。当時は用途を考えていませんでしたが、後に金属・木材加工をするうえで欠かせない道具となりました。
仕組み
コンセントから得られる電気は交流です。交流とは時間ごとに電圧が変化する電源です。東京では100V 50Hzの交流が使われています。図にすると以下のようになります。
2014/8/27追記: グラフはイメージであり、実際の値とは異なります。
50Hzとは、1秒間に50回の繰り返しを意味しますので、1回の繰り返しは1/50=0.02秒です。値がプラスの時はコンセントの左側の電圧が高く、値がマイナスの時はコンセントの右側の電圧が高いという意味です。
他国でも50Hzであれば形は同じです。例えばチューリッヒでは230Vですが、0.02秒で1サイクルなのは同じです。
日本は周波数50Hzと60Hzの両方が採用されてれる特殊な国です。その境界は富士川です。
60Hzの交流電圧はこのように変化します。
60Hzとは、1秒間に60回の繰り返しを意味しますので、1回の繰り返しは1/60=0.0125秒です。よって0.02秒においてはすでに2つ目のサイクルが始まっています。
電圧と周波数の組み合わせが色々と考えられますが、旅行の際には特に問題とはなりません。それはACアダプターが変換してくれるからです。
ほとんどのACアダプターには、INPUT 100-240V 50-60Hzと書かれています。これは、コンセントから得られる電圧が100-240Vの間でかつ周波数が50-60Hzの間であれば、どのような組み合わせであっても対応できるという意味です。海外では変圧器を使わなくてはいけないという誤解があるようですが、ACアダプターにこう書かれている限り、変圧器は不要です。ACアダプターをコンセントにそのまま接続できます。(プラグの形状変換が必要な場合はありますが)
トライアック万能調光器キット(以下調光器)は、このように電圧をカットします。
山の半分がなくなっていますね。簡単に言うと、0.005秒に1回コンセントを抜き差しするのと同じです。
作り方補足
私はこのキットを組み立てられずに苦労しました。その理由は以下の通りです。
- 何をどこにはんだづけすればよいか説明がない
一般的に、キットには付属品が番号付けしてあり、基板に同じ番号が書かれています。本キットには部品一覧も実装例もないので、回路図を見ながら自分で判断する必要があります。 - 必要な穴が開いていない
電源プラグやフューズを取り付けるための穴を自分で開ける必要があります。 - 不要な穴が開いている
不要な穴が開いています。何に使うのか未だにわかりません・・・。
これらを補足すると、以下のようになります。
赤マルの位置に穴を開けました。黄色の配線を行いました。赤×印には何も接続しませんでした。CF1とCF2には以下のフィルムコンデンサを使用しました。
- CF1 0.1μF 250V
- CF2 1μF 250V
コントロールしたい家電に応じたフューズを選択してください。フューズとは、定められた値以上の電流が発生した際に、自身の発熱によって焼き切れ、回路を遮断する導線のことです。私はいくつかの機器をコントロールしたかったのですが、最も消費電力(W)が高いのは掃除機でした。掃除機の仕様を調べたところ、
AC100V 50/60Hz 1000W
と書かれていました。掃除機に流れる電流は、以下の式で求められます。
W = V * A
1000 = 100 * A
A = 10
よって、掃除機には10Aの電流が発生します。また、本体には15Aのフューズが内蔵されていると書かれています。すなわち、10Aを想定した作りであり、安全のための閾値は15Aなのです。よって15Aのフューズを選択しました。
2015年5月13日追記
15Aのフューズにする根拠はもっと複雑です。掃除機に発生する電流は電圧と電力から単純に求めることができません。(Wikipedia) 掃除機にはモーター(コイル)とコンデンサが使われています。これらに交流電圧を加えた時に発生する抵抗力は、時間とともに大きくなったり小さくなったりします。よって流れる電流の値も時間とともに大きくなったり小さくなったりします。
詳細は単相交流回路、誘導リアクタンス、容量リアクタンス、インピーダンスといった言葉で検索してみてください。計算式は見ない方がいいです(笑)。
はんだ付けの工夫
今度は基板とケースの固定について考えました。基板をケースに固定するにはスペーサーとネジを使います。
スペーサーは1個20円もします。ただのプラスチックなのに高いと思い、他の素材を探していると、こんなものがありました。
これは子供がアクセサリーを自作するための素材で、パーラービーズという商品です。高さ4.8mm、直径4.9mmです。穴の直径は2.7mmです。ISO M3ネジがなんとか締められますが、ネジ穴が切られている訳ではないため、力を入れると抜けてしまいます。しかし、この素材は加熱することで「締める」ことができます。使いこなす事ができれば便利な素材ですね。
トライアックのはんだづけは工夫が必要です。ケースに入れた後に、トライアックの背中がケースにぴったり接着するよう、高さを調整します。こんな感じです。
スペーサーとトライアックの高さがほぼ同じになりました。発生する電流が高くなるほどトライアックが発熱しますが、トライアックがケースに接着することで放熱することができます。
動作テストしてみました。
試しに扇風機をつけたところ、回転数を変化させることができました。
ケース加工
使用したのはタカチのアルミダイキャストボックス TD7-10-3です。
まずはケースへヘアライン加工を施します。ヘアライン加工とは、同じ方向にやすりがけする表面加工の事です。東急ハンズで購入したアルミの板をいくつかのやすりで磨いてみました。
番目を変えると、触感だけでなく色合いも変化するのが面白いですね。今回は150番で磨くことにしました。
冶具の自作
次にケースに穴を空けるのですが、ケースをフライス盤に固定するための道具が必要です。ケースの側面に穴を開けるには、少なくともケースの高さ(10cm)でケースを台に固定する必要があります。
しかしフライス盤にはこのような固定器具(冶具(ジグ))は付属していません。色々調査したところ、DIYユーザーは冶具を自作することもよくあるそうです。私も冶具を作る事にしました。まずは道具を用意ました。
購入したのはマシンバイス (Proxxon No.20300)、ハンドソー (Bahco 227)、ISO M6 棒ネジ(ユニクロメッキされた鉄)です。マシンバイスは純正でなくても取り付けできると思います。ハンドソーには色々ありますが、Bahco 227は刃を垂直方向だけでなく水平方向にも取り付けられるので便利です。
棒ネジを切断した後はバリ(切断面の突起)がありますので、まずはやすりがけします。この棒ネジは鉄でできていますが、表面は亜鉛で覆われています。亜鉛でメッキ処理することをユニクロメッキと呼びます。亜鉛を蒸発させて鉄に付着させるようです。
切断面を見ただけではわかりませんが、このままでは内部の鉄がむき出しなので、1, 2週間程で切断面が錆びます。これを予防するため塗装しました。
使用した塗料は、大日本塗料のカラーさび止めです。
ケースを抑える金具は、八幡ネジのHK-15を使いました。
ただし、内側の隙間が狭く、そのままでは棒ネジが入らないため、幅を広げました。
最後に板ナットを作りました。これはお店に売られている板ナットはサイズが小さくて不安定だからです。
東急ハンズで購入した5mmのアルミ板に穴を開けます。これは下穴です。
ネジ穴を開けるには、タップを使います。ネジ穴なんて工場の機械にしか開けられないと思っていました。自分でも簡単に開けられるとは。
購入したのはライト精機のものです。写真のタップサイズは1/4Wですが、今回の作業に使用したのはISO M6です。
別売りのホルダーに装着し、手で回します。ただしこのホルダーは保持するのが難しく、穴が傾く事がありました。
大きめのホルダーを買いました。こちらの方が正確に開けられます。
穴を開ける際は、切削オイルを塗るといいです。(写真のものです) 力をあまり入れなくても刃が進みますし、刃が長持ちします。なお、これまでの全ての金属加工にも切削オイルを使用しています。
穴を開けたらハンドソーで切断します。
この後研磨しました。そして出来たナットを並べてみました。
随分と不揃いですが、フライス盤を固定するには十分でしょう。
ケース加工
ようやくケースに穴を開ける準備ができました。あらかじめ加工位置を実寸大で印刷しておき、それを貼り付けました。こうすると視認性が上がり、より正確な作業ができます。
本体をケースに入れる時点で問題が。AC(OUT)が基板にぶつかってしまいました。
仕方がないので、ACの位置を変更しました。開いた穴をふさぐには、パテを使います。これはニッケンのパテ職人です。
パテは粘土状の材質ですが、乾燥するとプラスチックのように堅くなります。
穴を埋めて乾燥させ、その後研磨しました。
AC(IN)プラグも固定しました。あまり綺麗にできませんでした。付属のビニール手袋では作業がしづらいです。しかし素手で触ると2, 3日は匂いがとれません。このパテはとにかく臭いのです。
ようやく出来たと思ったら、今度はコンデンサ(茶色い部品)がAC (OUT)にぶつかりました。
コンデンサを基板から外し、導線でつなぎました。
完成!キットを購入してから完成まで半年ほどかかりました・・・。金属加工するなんて思ってませんでしたから・・・。(^^;
最初に「金属・木材加工をするうえで欠かせない道具となった」と書きました。調光器を使ってパワーを調節できる道具には、こんなものがあります。
左上から、掃除機、丸のこ、扇風機、はんだ、エアクリーナー、サンダー、ドライバードリルです。
2016/8/21追記
調光器を使うと壊れるものがありました・・・。
風量を弱くすることはできましたが、夜の間稼働させ続けたところ、翌朝に故障していました。電源が入らなくなりました。異臭や異音はありません。
内部のICチップ(マイコン)の代わりにRaspberry PiをつないでPWMを流したところ動作はするので、内部のICチップが壊れたのだと思います。
なお、マイコンでない扇風機は壊れません。マイコンでない扇風機はスイッチやタイマーが突起しています。
追記以上
ところで、多くのLED照明には「調光機能のついた器具には使用できません」と書かれています。
どうなるのか気になったので実験してみました。調査したのはOHMのLDA9N-Gです。
100%では問題なく点灯しました。箱には「100%点灯でも使用不可」と書かれていますが、自己責任で使う限り動作には問題なさそうです。ここからパワーを落としていくと、照明が点灯から点滅に変わりました。それも激しいフラッシュのようです。写真は50%時ですが、シャッタースピードが遅いので点灯しているよう見えています。
このフラッシュ状の点滅ですが、冒頭に書いた仕組みを考えれば納得です。50%の場合は、
0.005秒間点灯
0.005秒間消灯
0.005秒間点灯
0.005秒間消灯
これを50回繰り返すのでしょう。
もし本記事に興味、ご関心があれば、ぜひ「ラズベリーと電子工作の記事一覧」を見てください。例えばこんな記事があります。
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